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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)642号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鍛治利一、同松永謙三の上告理由第五点について。

賃貸借は、当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、賃貸借の継続中に当事者の一方にその義務に違反し信頼関係を裏切つて賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあつた場合には、相手方は民法五四一条所定の催告を要せず賃貸借を将来に向つて解除することができるものと解すべきであることは、すでに当裁判所の判示したとおりである(昭和二四年(オ)一四三号同二七年四月二五日第二小法廷判決)。本件において原判決は、上告人は本件土地をバラツク所有のためにのみ使用し本建築をしないこと、上告人は同所に寝泊りをしないこと等を特約して一時使用のため被上告人より右土地を賃借して地上に木造木葉葺周囲板張りのバラツクなる仮設建物を建築所有したのであるが、その後に至り上告人は右地上に建築した前記建物を旧態を全然留めない程度に改築して木造瓦葺二階建の長年月の使用に耐え得べき本建築物にし、上告人夫婦において居住している事実を確定した上、上告人の右行為は賃貸人賃借人間の信頼関係を裏切ること甚しいものと解して、このような場合には賃貸人において賃貸借契約を解除し得る権利あるものとして被上告人のなした賃貸借契約解除の意思表示を有効と判示したものであつて、原審の右判断は十分首肯することができる。それ故、原審が民法五四一条所定の催告のないのに拘らず被上告人の解除を是認したことには、なんら所論のような違法はなく、論旨は理由がない。

その他の論旨(上告代理人土淵益平の上告理由をも含む)はすべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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